こむつまの日記

東京から熊本に移住したごく普通の専業主婦が思い出を消費するブログです。

地方創生の正体-なぜ地域政策は失敗するのか-

首都大学東京准教授の山下祐介氏と東大教授で社会学者の金井利之氏との対談形式で書かれた著作、「地方創生の正体」を読みました。

地方創生の正体: なぜ地域政策は失敗するのか (ちくま新書)

地方創生の正体: なぜ地域政策は失敗するのか (ちくま新書)

 

 

本書では、東日本大震災で甚大な被害を受けた東北地方の復興が、時間的に数年を経過し(もうすぐ5年が経ちますね)、あれだけ莫大な予算が投入されながら、遅々として進まず、あるいは国や自治体の主導で住民の意向が聞き入れられないまま事業遂行されてしまうのはなぜか?という点が問題提起されます。

 

震災復興の現場で顕在化しているこの問題が、実は全国の自治体で現在競争状態となっている「地方創生」に関する一連の施策に共通していると筆者は述べます。

 

そして、全国の現場で起こっているさまざまな矛盾や行き詰まりを、そして近い将来に起こるであろう地方創生事業の結末を、鋭く指摘し、あるいは予言する内容となっています。

 

なぜ、地方創生事業は失敗すると筆者は言うのでしょうか。

 

ポイントは以下の2点です。

 

1.いつの間にか、国の責任が地方に転嫁されている

 

現在地方が抱えている過疎化や高齢化、若者の流出、経済の停滞などは、多くは国の政策や立法が原因でもたらされた部分があります。

もちろん地方に責任がないとは言えませんが、このような国の大きなトレンドを一地方で変えるには限界があります。

 

しかし、残念ながら、国は今のところこれらの問題に対する根本的な処方箋を示すことができていません。

 

国は、

  • 頑張らない地方は消滅しても仕方がないぞ!
  • カネ(交付金)は出すから知恵は地方が出しなさい!
  • そしてそれがキチンと実行されて効果が出ているかは国がチェックします。
  • とにかく地方はしっかり頑張りなさい!

と言うだけなのです。

 

筆者はこれこそが論理のすり替えであり責任転嫁であると指摘します。

 

 

2.実は地方の個性が無視されている

 

上記のような競争のまな板に乗ってしまった地方がさらに困るのは、国の支援を受ける(国からカネをもらう)ためには期限が切られており、ごく短期間に地方自治体ごとの「独自戦略」なるものを作らなければならないことです。

 

結局、時間がないのでコンサルに丸投げするか、既存の各種計画を寄せ集めただけの、要するに金太郎飴的な計画になってしまうのです。

 

とにかく大至急で独自戦略という名の金太郎飴計画を作り、交付金や補助金にエントリーする。

そして、もらったカネで金太郎飴計画に書いてある薄っぺらい事業を実施・・・

 

要するに、拙速な計画づくりを行うと、それに投入される予算やマンパワーは死にガネにしかならないわけです。

 

国の予算獲得が主眼となり、次いで予算の消化が命題となってしまい、一時的な経済効果はあったとしても、その事業は継続せず自立も果たせない地方。

 

一方、真に成功している地域振興の現場では、住民の合意や独立採算でできるしっかりした事業計画づくりがその根底にあります。

トップダウンではなくボトムアップ、核になるメンバーの強い結集、その地域の実情に応じた取り組みといったことがカギになるのです。

 

 

本書ではこれまで見てきた通り、上記に代表されるような「問題提起」はなされているのですが、「ではどうしたらいいのか」についてはほとんど言及されていません。

それはつまり、「答え」を他者に求めてもどうしようもないということなのでしょう。

それこそ、それぞれの地域で考えるほかないのです。

 

最後に、同じ山下祐介氏が書かれた「地方消滅の罠」も簡単に紹介しておきましょう。

地方消滅の罠: 「増田レポート」と人口減少社会の正体 (ちくま新書)

地方消滅の罠: 「増田レポート」と人口減少社会の正体 (ちくま新書)

 

 

建設省OB、元岩手県知事、元総務大臣であらせられるところの増田寛也氏を代表とする日本創生会議が公表し、「消滅可能性都市」という刺激的なセンセーショナルを巻き起こした、いわゆる「増田レポート」を痛烈に批判した内容となっています。

 

経営難で市町村という組織が消滅することはあっても、人々の生活の場である「まち」や「むら」が消滅することなど原理的にあり得ませんよということが淡々と述べられており、多少難解ですが、面白い内容でした。

 

ではでは、See you later, alligator.

旦那の禁酒継続期間:32日