バカが読んではいけない本
大学生の時、英語の授業の講師が小谷野敦氏でした。
当時、小谷野先生の授業は人気がありませんでしたが、
・出席をとらない
・一度も授業に出なくても、試験の成績が良ければ単位をくれる
という授業方針であったため、「いかに楽をして単位を取得するか」ということしか考えていなかったこむつまは、喜んで先生の授業を履修しました。
授業に出てみると、意外(?)なことに小谷野先生の授業は面白かったです。
海外の文学作品を原著で読み進めながら、英文構造や和訳について学ぶというスタイルの授業だったのですが、先生の文学作品や歴史への造詣の深さ、知識量に驚嘆したことを記憶しています。
さて、本書は「読書術」と銘打っていますが、世間一般の、少なくともビジネス書コーナーにある「読書本」とは毛色が違います。
著者が本書で想定している「バカ」というのは、
「哲学とか数学とか、抽象的なことが苦手な人」であり、
もっと言えば、フランス現代思想なんかが気になるけど、バリバリ読破できる、というわけにもいかず悩んでいるような人を指しています。
本書では、珍しいことに「読んではいけない本」がリストされているのですが、ここに挙げられている本を見れば、著者がどんな読者を想定しているかが分かります。
最後にそのリストを引用したいと思いますが、「そういった本を読まなければいけない」と思っているような人向けに書いているのです。
こういった難解な本を読まないといけないと思っているならば、無理に読む必要はない、と著者は言います。
著者は難解な本そのものを全否定している訳ではなく、読む価値が無いと言っているのでもありません。
ただ、「バカ」が無理をして読むことは無いと言っているのです。
もっとほかにも読むべき本があると。
では、「バカ」はどうすべきか。
筆者は、難解本を避け、歴史を学ぶべきだと言います。
歴史を学び、事実に就くこと。
「バカ」はまずそこから始めるべきなのです。
学者ですら、資料や具体的事実に基づかずに、思弁や印象、理論だけでものを書く人が多い中、「バカ」でもちゃんと事実を押さえれば、頭のいい相手に勝てるのだそうな。
高校でやるような世界史、日本史の話をきちんと学ぶこと。
それも、小説でもマンガでも映画でもなんでもいいのです。
「バカ」なんだからカッコつけても仕方がない。
まずは、それらを入り口にして、後で知識を深めたり、訂正したりすれば良いのです。
ダメなのは、背伸びをして難解な本に手を出し、でも結局はおもしろくなくて頭に入らなかったり、挫折してしまったりすることなのです。
非常に示唆に富む内容だと思いませんか?
バカのみなさん。
最後に、本書に記された「バカ」が「読んではいけない本」の一部を紹介しますね。
パスカル『パンセ』…「人間は考える葦である」という言葉で有名な断章集
夏目漱石『文学論』…後に漱石自身が「学理的閑文字」と呼んだとのこと
小林秀雄のほとんどすべて
折口信夫『古代研究』…著者曰く、「ほとんどが折口の想像と妄想の産物」
吉本隆明『言語にとって美とはなにか』…「読解不能」らしい
バタイユ『エロティシズム』…「意味不明」らしい
ブランショ『明かしえぬ共同体』…同じく「意味不明」
ロラン・バルト『表徴の帝国』
フロイト『モーゼと一神教』『ドストエフスキーと父親殺し』『トーテムとタブー』
ユングのすべて…「オカルト」とのこと
河合隼雄『昔話と日本人の心』
丸谷才一『忠臣蔵とは何か』…著者曰く、「論証がめちゃくちゃ」
中井英夫『虚無への供物』
中沢新一のすべて…「いんちき」とのこと
カルロス・カスタネダのすべて…同じく「いんちき」とのこと
前田愛『都市空間のなかの文学』
ではでは、See you later, alligator.