【感想】小川仁志著「世界のエリートが学んでいる教養としての哲学」
現在私たちが暮らしているこの21世紀という時代は、グローバリゼーションやインターネットによって常識そのものが変わりつつあるため、何をするにしてもゼロからルールをつくったり、枠組みを考えたりする必要が生じていると言われています。
つまり、既存の枠組みを効率よく加工するといった従来必要されていた能力ではなく、自分の頭で考える能力が必要になっており、だからこそ、今、人間の基礎となる「教養」が重要視されているわけです。
欧米を中心に、世界では西洋哲学の教養があるのが当たり前とされている中、残念ながら日本では、ほとんどの人が哲学の基礎知識すら持ち合わせていません。
こむつまも大学の教養学部時代、哲学の授業は履修しましたが、記憶がすっぽりと抜け落ちている始末です。
というわけで、本日の紹介するのはこちらの本。
本書では、グローバルビジネスに必須である「哲学」を、ビジネスのためのツールとして位置付けて紹介しています。
構成は以下の通りです。
1.歴史
押さえておくべき「哲学史」(古代ギリシアの哲学/中世の哲学/近代の哲学/現代思想)
2.思考
ビジネスに使える「思考法」(思考法としての「相対主義」/思考法としての「イデア説」/思考法としての「無知のヴェール」 ほか)
3.古典
読んでおくべき「名著」(『ソクラテスの弁明』/『ニコマコス倫理学』/『社会契約論』 ほか)
4.名言
相手の心を打つ「名フレーズ」(幸福が善ならば、その最大の分量すなわち最大多数の幸福が何よりも選ばれるべき目的、道徳的善である/自分の身を守ろうとする君主は、よくない人間にもなれることを、習い覚える必要がある ほか)
5.関連知識
プラスαの「関連する知識」:宗教、倫理、日本の思想((宗教に関する必須知識/倫理に関する必須知識/日本思想に関する必須知識)
6.人物
マークしておくべき「重要人物」(ソクラテス/プラトン/アリストテレス ほか)
7.用語
哲学の「入門書」といっても、中身はそれなりのレベルであり、精読しないと内容が頭に入ってきません。
とはいえ、本書の全体を通し、極力難しい説明を避け、平素な言葉づかいに徹し、哲学に興味を持ってもらおう、ビジネスに活用してもらいたいという筆者の温かい心意気が感じられます。
特に面白かったのは、「7.用語」ですね。
20の用語に対する筆者の「超訳」が記されているのですが、分かり易く、非常に勉強になりました。
以下、引用します。
「用語」→「超訳」です
「コペルニクス的回転」→180度の発想転換
「ルサンチマン」→負け惜しみ
「パラダイム」→お手本となる型
「リベラリズム」→中立な立場から判断する思想
「中庸」→ほどほど
「エートス」→習慣によって培われた精神
「コギト・エルゴ・スム(われ思う、ゆえにわれあり)」→確かなのは自分の意識だけ
「コスモポリタニズム」→国家ではなく個人単位で物事を考える立場
「社会契約説」→人民が契約によって国を支配するための理屈
「アプリオリ/アポステリオリ」→経験なしに/経験に基づいて
「プラグマティズム」→役立つ知識に価値を置く考え方
「観念論」→世界は私達が頭の中で作り上げたものだとする考え方
「構造主義」→何でも仕組みで考える立場
「功利主義」→行動原理として快楽や幸福を重視する立場
「実存主義」→自分で人生を切り開く生き方
「脱構築」→一からつくり直すこと
「定言命法」→無条件の義務
本書の内容とは全く関係ありませんが、著者の経歴も非常に面白い、というか珍しいです。
(小川仁志氏の経歴)
1970年 京都市生まれ。
1993年3月 京都大学法学部卒業。
同年4月 伊藤忠商事入社。
その後、司法試験に向けて4年間フリーターをしながら受験勉強をするも挫折。
2001年 名古屋市役所に入庁する。
2005年 名古屋市立大学大学院博士後期課程入学。
2007年 徳山工業高等専門学校准教授。
2008年 名古屋市立大学大学院博士後期課程修了。博士(人間文化)。学位論文は「ヘーゲルにおける共同体原理の解明と展望 <多元主義>国家と現代福祉社会をめぐる考察」。
同年5月13日 徳山工業高等専門学校のゼミ室で第1回目の哲学カフェを開く。
2011年 米国プリンストン大学客員研究員。
2015年 山口大学国際総合科学部准教授。
フリーターをやったり、31歳で市役所職員になったり。
ただの学者さんではありませんね。
いずれこういった働き方(経歴)も珍しいものじゃなくなる時代になるんでしょうけど。
ではでは、See you later, alligator.