素質か、努力か
熊本は台風18号が接近中(通過中?)です。
さて、久しぶりの読書感想文。
諏訪貴子氏著「町工場の娘 主婦から社長になった2代目の10年戦争」を読みました。
筆者は、ダイヤ精機(株)の社長、諏訪貴子氏。
日本の製造業中小企業の経営者代表といった立場でマスコミに登場することもしばしば。
筆者が社長職を引き継いだのは、筆者が32歳だったある日、前社長である父親が体調を崩して緊急入院し、その日のうちに余命4日間と医師から宣告されたことがきっかけだったそうです。
従業員30名ほどの小規模企業では、製造から営業から経理から、あらゆることを社長が一人で仕切っているケースがほとんどだと聞きます。
筆者の場合も同様で、とにかく当座をしのぐために、誰かが会社の跡を継がなくてはならないということで、社長から可愛がられていた筆者に白羽の矢が立ったそうです。
しかも筆者はこの時点ではただの専業主婦(32歳)。
しかし、それまでに実家のダイヤ精機に短い期間ながら勤務したことはあったそうです。
大学卒業後、大手メーカーで2年間勤務し、その後、結婚式の司会者に転職していたのですが、父親から請われて事務仕事の手伝ったことがあったとのこと。
ただ、その時は、筆者が経営の数字を見て、今のままではいずれ会社が立ち行かなくなることにすぐに気づき、社員のリストラを父である社長に進言するものの、職人気質である父親はそれを受け入れず、逆に筆者をリストラしてしまったのです。
実際に筆者自身が経営者になってみると、小規模な企業にとっては従業員こそが宝であり、どんな事情があっても雇用を守るのが社長の使命であって、首切りだけは絶対に避けたいことがよくわかるようになったそうです。
一方で、これはもちろんなことですが、2代目社長として新たなことに取り組もうとするとき、昔からの従業員が社内の壁になって立ちはだかります。
職人としての技術もなく、年齢も若く、しかも女性。
筆者の悪戦苦闘が始まります。
3年間でダイヤ精機を改革する、という計画を立てた筆者は、一つ一つそれを実行に移していきます。
挨拶の励行、整理整頓といった5Sの徹底で社員の意識を改革し、並行して設備の更新や、ダイヤ精機の強みである精密加工技術の磨き上げにも取り組みます。
また、悪口会議と命名した社内ブレストを定期開催して社内の風通しを良くし、コミュニケーションの活発な、明るい社風に徐々に変えていきました。
新しい生産管理システムも導入しました。
紙ベースの作業指示書をやめ、IT化によって製品番号や工程情報のバーコードを図面に付けるようにしたのです。
これによって製品ごとの生産管理が容易になり、社員の管理業務も大幅に削減できました。
極めつけは作業の標準化。
受注から生産、検査、納品までの各作業をマニュアルにし、誰もが同じ手順、同じ品質でものづくりできるようになったのです。
このように見てきますと、すべてが順調に進んだように思えますが、実際にはさまざまな苦労や、筆者なりの工夫があって、社内外で応援してくれる人がだんだん増えてきた結果、会社全体が前に進むようになってきたわけです。
最後に。
「普通の主婦だった」と謙遜する筆者ですが、やはり一定の素質というか素養があったのは事実だと思います。
しかし、本書を読みますと、社長業に飛び込んでもがき苦しんだ結果、そういった素質や素養以上に、大所高所か見る目線とか、ポジティブな姿勢とか、小さくとも継続することこそがよっぽど重要なのだ、ということも感じます。
中小企業の経営を勉強したい方、自分も社長になりたいとお考えの方には非常に参考になると思います。
以上、ただの専業主婦の読書感想文でした。
ではでは、See you later, alligator.