幸福というのは、わきたつ感情が心の中に落ちつき場所を見つけること
こんにちは。
昨日の予告通り、「クロ―ディアの秘密」について書きましょう。
でもその前に、見てくださいよこれ。
じゃーん!
パッチワークでカーテンを作りました。
ステンドグラスみたいで綺麗じゃありません?
材料はこれ。
旦那のいらなくなったワイシャツです。
ワイシャツ4枚から材料を切りだして、せっせと縫いました。
では、本題へ。
- 作者: E.L.カニグズバーグ,E.L. Konigsburg,松永ふみ子
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2000/06/16
- メディア: 単行本
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ニューヨーク州グリニッチに住む主人公の少女、クローディア・キンケイドは4人姉弟の長女であることを理由に、家の中で様々な割りを食っている現状に嫌気が差していました。
お小遣いが少ないことや、家事をしなければならないことなど、理由は色々ありましたが、「ただのオール5の優等生でいるのが嫌になった」というのもあって、いっその事家を飛び出してしまおうと考えたのです。
クローディアは家出を決行するにあたり、パートナーを選ぶことにしました。
パートナーに選ばれたのは、下から2番目の弟、ジェイミー・キンケイド。
選んだ理由は、ジェイミーがやたら金持ちだったから。
クローディアは色々金策しても4ドル18セントしか準備できませんでしたが、ジェイミーはその約6倍の24ドル43セントも持っていたので、家出にはうってつけの環境を有していたからです。
クローディアの慎重な計画、ジェイミーの財務大臣の手腕。
この二つをもって、この姉弟はメトロポリタン美術館に家出をしに行ったのでした(ただあるところから逃げ出すのではなく、逃げ込みたかったからです)。
クローディアはヴァイオリンケースに、ジェイミーはトランペットケースに衣服をたくさん詰め込んで出発します。
メトロポリタン美術館を選んだのは、大きくて、気持ちがよくて、屋内で、その上、美しい場所だったからです。
そして人で「ごちゃごちゃ」なので、かえって誰何される心配もありません。
午後五時半を回ると、メトロポリタン美術館は二人だけのものになります──少なくとも、二人にはそれは間違いない実感でした。
夜になると、がらんとした世界を楽しみ、クローディアはマリー・アントワネットになり、屋内にある「願いの噴水」で二人、水浴びをします。
あやうく見つかりそうになったことも何度かありました。
クローディアにとって、今回の家出の目的は「前の自分と違っている」ことでした。
それは、冒険のためでも、ヒロインになるためでもなく、「以前は持っていなかった秘密を持ち帰る」ということでした。
クローディアはなぜ家出が楽しかったのかを悟ります。
それは、計画することも、美術館に隠れることも、「秘密」だったからです。
単なる家出だけでは、終わりがあります。
クローディアは、いわば「終わりのない秘密」を持って帰りたかったのです。
そのようなクローディアの心を惹きつけたのが、美術館の「天使の像」でした。
実に神々しい佇まいをしているその像を見たクローディアは、すっかり像に夢中になってしまいました。
「美術館には優雅で洗練されているものばかりなのに、何故あの像がよりもの凄く重要なものに見えたのかしら?」と、自分でも不思議に思ったクローディアは、この天使の像のことを調べ上げてみようと考えました。
そこまでクローディアが執心するこの天使の像ですが、新聞によると、
「この像見たさに約10万人が訪れたが、その像というのがイタリア・ルネサンスの巨匠、ミケランジェロの初期の作品かもしれないと言われている」
ということでした。
また、
「この像は美術館が競売で225ドルで買い入れたので、最大の掘り出し物かもしれない」
という驚くべきことも書かれていました。
同時代で同価値のダ・ヴィンチの作品が500万ドルだったことを考えると、225ドルなどまるで雀の涙にもならない話です。
一体あの像にはどんな魅力や秘密があるのか?
2人は像のことに焦点を絞って色々と勉強していくようになります。
クローディアはとくに、天使の像にとって自分が重要な人になりたいと思いました。
「自分でこの謎を解こう!そうすれば、像がおかえしに何か重要なことをしてくれるわ」と考えたのです。
そしてジェイミーを相棒にかけずり回り、ついに、天使の像の「元の持ち主」のことを突きとめます。
2人は美術館を出て、はるばるニューヨークからコネチカットにある屋敷を訪れます。
そして、天使の像の元の所有者だったフランクワイラー夫人は、この2人の珍客を迎え入れることになるのです。
しかし、「天使の像はミケランジェロの作かどうか」という子供たちの熱心な問いに、「それはわたしの秘密よ」と言って、フランクワイラー夫人は一向に答えてくれません。
一方のクローディアたちも負けてはいませんでした。
「この一週間、あんたたちはどこにいたの?」
「それはあたしたちの秘密です。」
ここではじめて、クローディアとフランクワイラー夫人は、お互いが「のっぴきならない秘密」を抱えていることを知り合います。
夫人は、クローディアが、美術館での冒険や興奮を自分の外にあふれ出させることなく、そっとしまい込める点で、彼女が「幸せである」ことを見てとります。
だからこそ、クローディアの秘密と、自分の秘密とを交換するという「商談」を最終的には成立させるのです。
「秘密というものは、それを持つだけで、その人を内側から支え、前とは違った人物に変える力を持っている」というのがこの作品のメッセージですが、素敵だと思いませんか?
「もしここにある綴じ込みがみんな秘密で、それに秘密ってものが人の内側をかえるもんだとすると、フランクワイラーおばさん、おばさんの心の中って、おそろしくごちゃごちゃ(mixed-up)で、みたこともないほどかわったもんだろうね。」
と、クライマックスのシーンで、ジェイミーは感嘆します。
何を隠そうこの「クローディアの秘密」、原題は「From the Mixed-up Files of Mrs. Basil E. Frankweiler」です。
直訳すると、「フランクワイラー夫人のごちゃごちゃの綴じ込み場所(ファイル)から」といったところでしょうか。
天使の像は、フランクワイラー夫人の秘密の "Mixed-up Files" に、羽根を休める場所を得たのでしょう。
わきたつ感情が落ち着き場所を得ること、それが幸福なのです。
ではでは、See you later, alligator.