英語学習者必読の一冊。「日本人の英語」
マーク・ピーターセン著、「日本人の英語」を読みました。
名著です。
いやー、久しぶりにがっついて読みましたよ。
著者のマーク・ピーターセンさんは、本書が出版された1988年当時は明治大学経済学部の助教授でした。
そう、本書はもう30年近く前に出版されたものなのです。
新入生の「異様な英語」から、修士や博士論文に出てくる「イライラする文」までを、非常に達者な「日本語」で説明してくれます。
ネイティブがなぜ「異様」に感じるのか、なぜ「イライラ」するのかを理解するとき、私たち英語学習者は、壁を一つ越えることができます。
筆者が「余分なthe症候群」と呼ぶものがあります。
日本人が書く英語には、余分な「the」が多いというのです。
そして、この現象の理由を以下のように推察します。
「theがついた方がそれだけ英語らしく聞こえるからではないであろうか」と。
もう本当に耳が痛いです。
だってなんとなくtheをつけちゃいますもん。
私たち日本人がなんとなく使用している「a」や「the」、「理由は分からないけどそういうものだ」として丸暗記して使用している慣用表現や前置詞の用法は、決して神の思し召しではなく、論理的根拠に基づくものだと筆者は説きます。
名詞に「a」をつけるのではなく、「a」に名詞がつくのです。
本書で紹介されている次の例文は、非常に簡単なものですが、a)とb)では意味が全く異なります。
a) Last night, I ate chicken in the backyard.
b) Last night, I ate a chicken in the backyard.
鶏肉は「chicken」なので、a) が正解なのですが、「b) を正しい英文として読めば、簡潔で、とてもヴィヴィッドで説得力のある表現になる」と筆者は言います。
「a chicken」とは、「ある鶏1羽」なので、裏庭で鶏を捕まえて、そのままそこで食べたことになるというのです。
著者曰く「夜がふけて暗くなってきた裏庭で、血と羽だらけの口元に微笑を浮かべながら、ふくらんだ腹を満足そうになでている――このように生き生きとした情景が浮かんでくる」とのこと。
「鶏肉」を食べたのか、「鶏1羽」を解体しながら血だらけになってムシャムシャ食べたのか、「a」ひとつでここまで変わるわけです。
以下、本書で紹介されているエキサイティングな例文を一部引用しましょう。
a) He is off work today.
b) He is out of the office today.
c) He is out of work.
英語学習者はご承知の通り、a) も b) も「今日はお休み」ですが、c) は「失業している」という意味です。
「out」というのは三次元関係を表し、動詞に「立体感のあるものの中から外へ」という意味を与える一方で、「off」は「あるものの表面から離れて」という意味を与えるものだという説明は非常にしっくりくるのではないでしょうか。
a) Before I went to Beijing, I studied Chinese.
b) 北京へ行く前に、中国語を勉強しておいた
c) Before I go to Beijing, I am going to study Chinese.
d) 北京へ行く前に、中国語を勉強する予定だ
話の時制によって形を変える英語と、時制を気にしない日本語の比較です。
過去のことなら過去形、今のことなら現在形であることを強いるのが英語ですが、過去か現在かは気にせず、行動の状態(前・後)だけで済ますのが日本語です。
英語的に訳すのであれば、b) は「北京へ行った前に」となるわけですが、日本語としては当然不自然です。
a) Meiji University
b) University of Meiji
出版当時筆者が所属していた明治大学。
大学の英語表記は「決めごと」だと思っていましたが、どちらでもいいというわけではないそうです。
明治大学の場合、正解は a) だそうな。
「University of ○○」の大学もたくさんあるので、b) でも良さそうに感じますが、この「of」は属性的な関係を表すため、○○には具体的に実在する地名が入らなければおかしいのです。
b)を訳すと違和感がはっきりします。
「明治な大学」
本書が、「英語の本質がわかると言っても過言ではない」と絶賛されているのは、著者の長い日本語生活のなかで、「この英文で彼・彼女は何を言いたいのか?」をとにかく突き詰めて考えたからです。
薄いのに中身が濃すぎる、本当にすごい本です。
英語学習者必読の一冊ではないでしょうか。
ではでは、See you later, alligator.