こむつまの日記

東京から熊本に移住したごく普通の専業主婦が思い出を消費するブログです。

英語で読み解く賢治の世界

ロジャー・パルバース(Pulvers Roger)著/上杉隼人 訳の「英語で読み解く賢治の世界」を読みました。 

英語で読み解く賢治の世界 (岩波ジュニア新書)

英語で読み解く賢治の世界 (岩波ジュニア新書)

 

 

まずは本書の紹介から。

 

「雨ニモマケズ」は、英訳するとどうなるの?

 よく出てくる擬音語はどう訳す?

 

宮沢賢治の詩は、日本語・英語の両方で読めばさらに深く味わえる。

賢治詩集を英訳した著者が、賢治の世界を英語のキーワードで案内する。

 

「雨ニモマケズ」「札幌市(さっぽろし)」「永訣(えいけつ)の朝」「わたくしどもは」「風景とオルゴール」「氷質の冗談」などの詩を、日本語原文、英訳、英語のキーワード、解説とともに紹介します。

  

著者であるロジャー・パルバース氏(1944~)は、米国出身、オーストラリアの劇作家です。

 

ベトナム戦争への反撥から米国を離れ、ワルシャワ大学とパリ大学に留学後、1967年に初来日。

 

京都に住み、京都産業大学でロシア語やポーランド語の講師を務めたのち、1972年、キャンベラのオーストラリア国立大学に赴任し、日本語や日本文学を講義。

 

1976年、オーストラリア国籍を取得。

1982年、映画『戦場のメリークリスマス』で助監督を務めた後、再び来日し、演劇活動に携わられます。

 

長篇小説や短篇集、戯曲、随筆集、翻訳などにわたり、日本語と英語で25冊の著書があるとのことです。

 

2008年、第18回宮沢賢治賞受賞、2013年まで、東京工業大学教授、世界文明センター長を務め、2013年、「雨ニモマケズ」の翻訳で第19回野間文芸翻訳賞受賞という輝かしい経歴を持たれています。

 

 

本書を読んで感じたことは、筆者の宮沢賢治作品への愛情です。

 それはもう、あらゆる言葉を尽くして賢治の作品を賞賛しています。

 

そして、やはり面白かったのが、「雨ニモマケズ」の翻訳です。

 

まずは原文から。

 

雨ニモマケズ

 

雨ニモマケズ

風ニモマケズ

雪ニモ夏ノ暑サニモマケヌ

丈夫ナカラダヲモチ

慾ハナク

決シテ瞋ラズ

イツモシヅカニワラッテイル

一日ニ玄米四合ト

味噌ト少シノ野菜ヲタベ

アラユルコトヲ

ジブンヲカンジョウニ入レズニ

ヨクミキキシワカリ

ソシテワスレズ

野原ノ松ノ林ノ蔭ノ

小サナ萓ブキノ小屋ニイテ

東ニ病気ノコドモアレバ

行ッテ看病シテヤリ

西ニツカレタ母アレバ

行ッテソノ稲ノ朿ヲ負ヒ

南ニ死ニサウナ人アレバ

行ッテコハガラナクテモイイトイヒ

北ニケンカヤソショウガアレバ

ツマラナイカラヤメロトイヒ

ヒドリノトキハナミダヲナガシ

サムサノナツハオロオロアルキ

ミンナニデクノボートヨバレ

ホメラレモセズ

クニモサレズ

サウイフモノニ

ワタシハナリタイ

 

次に翻訳版です。

 

STRONG IN THE RAIN

 

Strong in the rain

Strong in the wind

Strong against the summer heat and snow

He is healthy and robust

Free from all desire

He never loses his generous spirit

Nor the quiet smile on his lips

He eats four go of unpolished rice

Miso and a few vegetables a day

He dose not consider himself

In whatever occurs...his understanding

Comes from observation and experience

And he never loses sight of things

He lives in a little thatched-roof hut

In a field in the shadows of a pine tree grove

If there is a sick child in the east

He goes there to nurse the child

If there's a tired mother in the west

He goes to her and carries her sheaves

If someone is near death in the south

He goes and says. 'Don't be afraid'

If there are strife and lawsuits in the north

He demands that the people put an end to their pettiness

He weeps at the time of drought

He plods about at a loss during the cold summer

Everybody calls him 'Blockhead"

No one sings his praises

Or takes him to heart...

 

That is the of person

I want to be

 

いかがでしょうか?

 

「雨ニモマケズ」が「Strong in the rain」なんて面白いですよね。

筆者はこれらの翻訳について、以下のように説明しています。

  

どの言語からどの言語へ変えたものであっても、すぐれた文学の翻訳というのは、原文がその読者を感動させるのと同じぐらい、訳文でその読者を感動させることができるのです。

 

この美しい祈りのような詩は、「・・・マケズ」と否定形で始まります。

この「マケズ」を文字通りに訳せば、unyielding(屈しない)とか、not giving in to(負けない)となるかもしれません。しかし、unyielding to the rainやnot giving in to the rainとしてしまうと、なんだか弱い感じがしますし、このようなことばで詩を始めるのは効果的ではありません。

 

そんなふうにして訳してしまいますと、詩にならないのです。

さらに言いますと、正確な翻訳とは、原文のニュアンスを余すところなく伝えるものだとすれば、unyielding to the rain も not giving in to the rainも十分な翻訳ではないと思います。

 

日本語と英語は、言語構造がまったく違います。

翻訳するときには、辞書を引いて、ただそれに相当する訳語を置き換えてやればいい、というわけではありません。

 

翻訳はそんな単純な作業ではなく、大きな冒険なのです。

 

「雨ニモマケズ」の詩は、最初の1語が重要です。

この詩は「雨」という語から始まります。

したがって、英語にするにあたっては、原文と同じように、最初の1語を強烈なものにしたいと思いました。

そこでぼくはstrongという単語でこの詩を始めることにしました。

  

また、別の個所でも以下のように述べています。

 

翻訳の作業では、常に次のようなことを考えなければなりません。

 

作者は一体ここで何を言おうとしているのか?

 

翻訳とは、原著者が一体何を言いたいのかを解釈しなければ作業であって、ただ機械的に訳語をあてはめればいいというものではありません。

 

「雨ニモマケズ」以外にも、本書には多くの宮沢賢治の作品が翻訳され掲載されており、独特の表現がちりばめられている宮沢賢治の作品は、英語で読むと、なお一層理解が深まります。

 

岩波ジュニアですので、読みやすくおススメです。

 

ではでは、See you later, alligator.